礼拝メッセージ(2025年10月19日)「模範的なニネベ」ヨナ書3章1~10節

悔い改めたニネベと思い直された神様

ヨナ書2章では、海へ放り込まれたヨナが大きな魚に呑み込まれ、その腹の中で主に祈りました。すると彼は、神様が自分の祈りに応えてくださること、神様に背いた自分を見捨てず、赦してくださったことを知りました。大きな魚から陸地に吐き出されたヨナに、再び神様の言葉が臨んだところから3章は始まります。

「さあ、大いなる都ニネベに行って、わたしがお前に語る言葉を継げよ。」(ヨナ書3章2節)

1章と同じような呼びかけですが、今度は、ヨナはすぐに立ち上がり、敵国の都であるニネベに向かいました。ニネベに対する敵意も残っていたけれども、神様の命令に従うことが、このときのヨナにとっては重要なことでした。

ニネベはとても大きな都でした。町全体を歩き回るのに3日もかかるほどです。4章11節によると、ニネベの人口は12万人以上で、家畜の数は数えきれないほどだったそうです。ヨナはその大きな都ニネベに入り、一日分の距離を歩きながら大声で叫びました。

「あと四十日すれば、ニネベの都は滅びる。」(ヨナ書3章4節)

ヨナが告げたのはこれだけで、何の説明もありません。滅びる理由の説明も、滅びを免れるために必要なことの説明もありません。神様に従ってニネベへやって来たヨナでしたが、心の中ではニネベが滅びることを願っていた。そのために預言活動にも熱が入らなかったのかもしれません。

ニネベの人々の反応は、ヨナにとって完全に予想外でした。たったの一日でニネベの人々はヨナが呼びかけた警告を受け入れ、それが神様の言葉だと信じたのです。ニネベの人々は誰もが断食して、粗布をまとって悔い改めを示しました。そのことはニネベの王にも伝わり、なんと王も悔い改めを示したのです。

王は王座から降り、王の着物を脱ぎ捨てました。そうやって王の権威を投げ出して、粗布をまとい、灰の上に座りました。さらに王と大臣はニネベの人々に布告を出して、人も家畜も断食をして、ひたすら神に祈るようにと命じました。祈ることだけでなく、一人ひとりが悪い行いから離れることも求めました。

「おのおの悪の道を離れ、その手から不法を捨てよ。そうすれば神が思い直されて激しい怒りを静め、我々は滅びを免れるかもしれない。」(ヨナ書3章8~9節)

祈ったり、行いを正したりすれば、滅びを免れることができるという保証があったわけではありません。そもそもヨナは悔い改めを求めてはいませんし、滅びを免れる可能性は少しも語ってはいません。それでもニネベの人々は謙虚に神様の前にへりくだりました。

神様はニネベの人々が変わったことを御覧になりました。心を変えると共に、悪の道を離れるという行動が伴ったことを見て、神様も思い直し、災いを下すのをやめられました。

警告を無視して滅びたイスラエル

ニネベの人々の行動は、主なる神様の御心に適ったものでした。そのことがヨエル書の預言からもわかります。

「主は言われる。『今こそ、心からわたしに立ち帰れ。断食し、泣き悲しんで。
衣を裂くのではなく/お前たちの心を引き裂け。』
あなたたちの神、主に立ち帰れ。主は恵みに満ち、憐れみ深く
忍耐強く、慈しみに富み/くだした災いを悔いられるからだ。」
(ヨエル書2章12~13節)

一方で、イスラエルはこのときのニネベとは対照的に、神様の警告に無視し、背を向けるということを何度も繰り返してきました。

「『万軍の主はこう言われる。
正義と真理に基づいて裁き/互いにいたわり合い、憐れみ深くあり
やもめ、みなしご/寄留者、貧しい者らを虐げず
互いに災いを心にたくらんではならない。』
ところが、彼らは耳を傾けることを拒み、かたくなに背を向け、耳を鈍くして聞こうとせず、心を石のように硬くして、万軍の主がその霊によって、先の預言者たちを通して与えられた律法と言葉を聞こうとしなかった。こうして万軍の主の怒りは激しく燃えた。」
(ゼカリヤ書7章9~12節)

イスラエルもニネベのように、憎み合い、愛を失い、弱くされた人を虐げ、争いを引き起こしていました。そのようなことは神様の御心に背く罪であり、律法にも反するものでした。そのような罪を神様は見過ごしにはなさらないことも告げられていたにもかかわらず、イスラエルは神様からの警告に向き合おうとはしませんでした。だからこそ、イスラエルは滅亡したのだと、後の人々は後悔と反省の想いを聖書で証ししています。

ヨナの警告を聞いたとき、ニネベの人々は神を信じたと言われています。それは「ユダヤ教に改宗した」ということではなく、ヨナの言葉が神様からの警告の言葉であり、真実であると信じた、ということでしょう。

もし改宗したとしても、イスラエルの人々と同じように神様の言葉を無視するのでは、滅びを免れることはできなかったでしょう。改宗することよりももっと大事なことは、神様の言葉が聞こえた時にそれに応えること。自分の罪を悔い改め、悪の道を離れて、神様へと向き直すことなのではないでしょうか。

滅びに向かい始めている現在

何かが滅びるという予言は、安易に語られてよいものではありません。今年も7月5日に日本を大災難が襲うという噂が広がっていました。結局はデマだったとわかりましたが、社会に混乱を引き起こすこともありますし、それを悪用しようとする人もいますので、注意が必要です。

それでも、滅びが起こらない、というわけではありません。むしろ今、世界規模で文明の崩壊という危機が迫ってきています。先週、暖かい海のサンゴ礁が限界を超えてしまった、という報告書が公表されました。海の温度が上昇していることなどが原因となって、多くのサンゴが死んでしまい、回復不可能なところまできてしまった、というのです。

サンゴ礁は、多くの生き物の住みかとなって、海の生態系を支えています。それと共に、二酸化炭素を留めたり、天然の防波堤になったり、水を浄化したりと、環境や他の生き物に様々な影響を与えています。そのサンゴ礁が大量に死んでしまうと、海の生態系も回復できなくなり、地球の環境システムにも大きな影響が出てしまいます。サンゴ礁を利用していた多くの人たちの生活も深刻な影響を受けるでしょう。

今、地球上の生態系が急速に破壊されており、気候変動も深刻な影響が出始めています。これらの変化は、単に環境が変わるというだけでなく、現代の文明社会を成り立たせる土台の崩壊にもつながります。既に海面上昇や干ばつによって移住を余儀なくされる人たちが増えています。今後も町が捨てられたり、社会のシステムが機能不全に陥ったりすることが起こってくるでしょう。

地球温暖化が深刻な問題として注目され始めたのは1970年代でした。1985年には地球温暖化に関する世界会議が開かれ、その後も政府間での議論が続いてきました。多くの科学者が警鐘を鳴らしてきました。キリスト教界でも、前のローマ教皇フランシスコなど、気候危機について警鐘を鳴らし、対策を訴えてきた人たちや団体がありました。

対策が進められてきたものもあります。けれども、立ち止まり、進む方向を変えるほどには至っていません。警告が語られるようになってから40年以上が経ちました。まだ滅びには至っていませんが、既に滅びに向かい始めているのが現状なのではないかととても心配をしています。

ニネベを模範として

イスラエルと比べても、また近代社会と比べても、ニネベの悔い改めは抜群の応答でした。ニネベの人々には40日間という猶予期間がありました。それは決して長くありませんでしたが、ニネベの人々はその短い期間も必要とせず、たった一日で警告を受け止め、罪を悔い改め、行動を変えました。警告の言葉への疑いも、反発もなく、まっすぐに神様からの言葉を受け止めたのです。これこそ神の民の模範となる姿勢でしょう。

ここで私たちが模範とすべきなのは、預言者のヨナではなく、ニネベの人々です。神の民でもない、国も民族も異なる人々だけれども、神様の厳しい警告を謙遜に受け止めた人々は、私たちの模範となります。

ニネベの模範的なこととして注目すべきなのは、王が呼びかけた8節の言葉です。

「おのおの悪の道を離れ、その手から不法を捨てよ。」(ヨナ書3章8節)

これはニネベの王の言葉ですが、神様の御心に沿った呼びかけでもありました。ニネベの悪が何であったのか、具体的には語られてはいませんが、それは神様にとって悪とされるものだったのでしょう。ゼカリヤ書では、不公正な裁きや憎しみ合い、弱くされた人々を虐げることなどが悪とされていました。

このような悪は、気候変動を引き起こし、文明の崩壊をもたらすものと表裏一体の関係にあるように思えます。私たちの社会でも、弱くされた人々が軽んじられ、虐げられることがあります。一方で格差は拡大し、生活にゆとりのある人は限られ、心身を蝕むほどに働かないと生きてはいけないような社会になっています。それも神様の目から見て、「悪の道」だったのではないでしょうか。

ニネベが悪の道を離れるためには、権力者が悔い改め、進む道を変えようとすることが必要でした。しかしヨナの預言を最初に受け入れたのはニネベの人々でした。ニネベの人々が悔い改めたことが伝わってから、王も悔い改め、悪の道を離れることを決意しました。

今の世の中にも、既に警告の言葉を聞き、行動を変えている人たちがいます。私たちもニネベの人々のように、警告の言葉が神様の御心に沿うものだとわかったならば、それを受け入れ、悔い改め、この社会も、この世界も悪の道を離れ、神様の御心に適う道へと向き直すことを祈り求めていくことはできるでしょう。それが滅びを免れる保証になるわけではありませんが、ニネベの人々を模範として、自分たちにできる最大限の悔い改めを示すことは、私たちにもできるかもしれません。

牧師 杉山望

※このホームページ内の聖句は すべて『聖書 新共同訳』(c)日本聖書協会 から引用しています。
 (c)共同訳聖書実行委員会 Executive Committee of The Common Bible Translation
 (c)日本聖書協会 Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988

参考書籍・サイト

『現代聖書注解 ホセア書―ミカ書』J.リンバーグ、日本基督教団出版局、1992年

『使徒的勧告 ラウダーテ・デウム――気候危機について』教皇フランシスコ、カトリック中央協議会、2023年

CNN、「地球が『新たな現実』に突入、気候に関する最初の転換点への到達で 報告書」、https://www.cnn.co.jp/fringe/35239154.html?ref=rss、2025年

10月14日

PADI、「私たちとサンゴ礁の関わり~サンゴ礁の重要性」、https://blog.padi.com/jp/theimportanceofcoralreefs/、2023年3月2日

visa vietnamによるPixabayからの画像