礼拝メッセージ(2025年10月5日)「神様からは逃げられない」ヨナ書1章1~16節

ヨナの逃亡計画
はるか昔、ガリラヤのある町にヨナという預言者がいました。預言者は、神様の言葉を人々に告げる人であって、ヨナもヤロブアム王が治めている時代に神様のお告げを人々に伝えていました。
あるとき、ヨナに神様の言葉が聞こえてきました。「さあ、立って、大いなる都ニネベに行き、そこに住む人々に呼びかけなさい。ニネベの人々は悪を行っており、その悪があまりにひどいので、私のところまで聞こえてきたのだ。」
預言者には、いつ、どんな言葉が神様から聞こえてくるかわかりません。それでも、神様の言葉が聞こえたなら、すぐに立ち上がって出かけて行きます。ヨナもこれまではそうしてきました。でも、今回は気が進みません。神様が行けと言った場所は、ヨナの国の人々を苦しめてきたアッシリア帝国の首都ニネベだったからです。
これまでヨナは自分の国の中で神様の言葉を伝えてきました。時には言いづらいこともありましたが、それでもヨナは勇気を出して神様の言葉を伝えました。そうすることが自分の国のため、仲間たちのためになると信じていたからです。
でも今回は敵国の都ニネベに行きなさいと命じられました。「何で私が憎いニネベのために出かけて行かなければならないのか。ニネベの連中のために苦労して、命までかけるなんて、私はまっぴらごめんだ。」とヨナは思いました。
でも、神様の声を聞かなかったふりはできません。ここに留まっていても、また神様から呼ばれるかもしれません。そこでヨナは考えました。「そうだ、ここから出かけて行って、ニネベとは反対方向の遠い町へ行こう。そうすれば、神様から逃げられるかもしれない。やりたくないことからは逃げてしまえばいいんだ。」
早速、ヨナは立ち上がり、タルシシュという町に向かいました。急いで逃げるために、船に乗って地中海を渡ることにしたヨナは、ヤッファという港町でタルシシュ行きの船を見つけ、船賃を払って乗り込みました。ヨナの逃亡計画は順調に進んでいるように見えました。
嵐の原因となったヨナ
ところが、ヨナを乗せた船が海に出ると、突然海は大しけになりました。猛烈な風が吹きつけ、波は見上げるほど高くなりました。船は制御不能となり、今にも砕けそうです。
経験豊かな船乗りたちも、この大しけの中で恐怖に襲われました。彼らはそれぞれの神に向かって助けを求めて叫びました。それと共に、船が沈没しないように、次から次へと積み荷を海に投げ捨てて、船を少しでも軽くしようとしました。船の中は大騒ぎです。ゴウゴウとうなる風の音、激しく打ち付ける波の音、神に祈り、積み荷を捨てろと叫ぶ船乗りたちの声が重なっています。
そんな大混乱の中で、一人だけ眠り込んでいる人がいました。ヨナです。ヨナは船底に横たわって、この嵐と混乱の中でも眠り続けていました。そんなヨナを見つけた船長は呆れながらヨナを起こして言いました。「何で寝ているんだ。さあ起きて、あなたの神に呼びかけなさい。そうすればあなたの神が助けてくれるかもしれない。」それでもヨナは祈りもせず、船乗りの手伝いにも行きません。何か考え事をしているのでしょうか。
積み荷も捨て切ったところで、船乗りたちは互いに言いました。「一体だれのせいで、こんな災難にあったのか。くじを引いて確かめようじゃないか。」くじを引くことは、人間にはわからない神様の意志を知るための手段でした。
するとくじはヨナに当たりました。船乗りたちが問い詰めると、ヨナは語りだしました。「私はヘブライ人。海と陸とを創造された天の神、主を畏れる者です。私は神様からの命令を聞きましたが、それを受け入れることができなかったので、神様からも、その役目からも逃げてきました。この大嵐が私のせいだということはわかっています。だから私を抱えて海に投げ込んでください。そうすれば海は静まり、穏やかになるでしょう。」
船乗りたちは驚き、戸惑いながらヨナの告白を聞きました。嵐の原因がヨナにあると分かっても、自分たちの手でヨナを嵐の海に投げ込むなんて、とんでもないことだと思いました。そんなことをしたらヨナは死んでしまいます。そこで船乗りたちは必死に船を漕いで陸に戻そうとしました。けれども海はますます荒れ狂ったので、陸に戻ることはできそうにありません。
追い詰められた船乗りたちは、ヨナの神、主に向かって叫びました。「ああ、主よ、この男の命のために、私たちを滅ぼさないでください。無実の者を殺したといって私たちを責めないでください。すべてはあなたの思いのままに行われたからです。」そして船乗りたちはヨナを抱えて海に投げ込みました。
するとどうでしょう。さっきまで荒れ狂っていた海が、ピタッと静まったのです。積み荷を捨てても、必死に漕いでも、どうにもならなかった嵐でしたが、海がヨナを飲み込んだとたんに波はおさまりました。船乗りたちは主を大いに畏れ、いけにえを献げて、誓いを立てました。
自分を諦めたヨナ
ヨナの逃亡計画は失敗に終わりました。考えてみると、ヨナはその計画が悪いことだとわかっていたのかもしれません。嵐の中でも、ヨナは船乗りたちとは違って、生き残るために祈ったり、積み荷を捨てたりしませんでした。自分のせいで、この嵐が起こされたのではないかと思い始めていたのかもしれません。
そのことは、くじがヨナに当たったことで確信に変わりました。神様から逃げ、神様の言葉を捨てようとした。それは正しいことではなかった。それは神様を裏切るという選択だった。それがわかっていたからこそ、ヨナはくじに当たったときに、自分のせいで嵐が起こったということを認めたのでしょう。
敵であるニネベの人々に神様の言葉を伝える、ということは、ヨナにとって受け入れ難いことでした。それでも神様は、ヨナをニネベに遣わそうとしています。気に食わないからといって、その役目から逃げることは認められません。
ヨナは神様の言う通り、ニネベに行って神様の言葉を告げるべきでした。でも彼は逃げてしまった。それでもまだ、嵐の中でできることはありました。ヨナも船乗りたちのように、神様に助けを求めて祈ってもよかったのです。自分が過ちを犯したことがわかったなら、そのことを神様に告白して赦しを求めてもよかったのです。
でもヨナには何もできませんでした。神様に腹を立てていたのかもしれません。過ちを認める勇気がなかったのかもしれません。いずれにしても、正しい道から逸れてしまって、過ちへと転げ落ちてきた自分には、もうどうしようもない、という諦めもあったのでしょう。だからヨナは、自分の罪を負って海に投げ込まれ、地の底まで沈んで滅びていくことを受け入れました。
神様からは逃げられない
ヨナは神様から逃げられませんでした。神様の言葉に背を向けて、反対方向へと急いで逃げても、そこには神様がいました。逃げられなかったヨナは、海に投げ入れられ、地の底へと沈んでいこうとしています。けれども、そこでもヨナは神様から逃げられませんでした。
来週に続く話を少し先取りしますが、神様は大きな魚に命じて、海に投げ込まれたヨナを呑み込ませられます。そうしてヨナは命を守られ、地の底から引き上げられるのです。神様に向き合えず、自分を諦め、下っていった地の底にも、神様はいたのです。
ヨナは神様から逃げられませんでした。敵にも神の言葉を告げるという預言者としての役割から逃げることはできませんでした。それと共に、神様の愛からも逃げることはできませんでした。たとえ自分を諦めてしまったとしても、地の底へと沈んでいったとしても、神様はヨナを諦めず、ヨナから離れず、そこにいたからです。
牧師 杉山望
※このホームページ内の聖句は すべて『聖書 新共同訳』(c)日本聖書協会 から引用しています。
(c)共同訳聖書実行委員会 Executive Committee of The Common Bible Translation
(c)日本聖書協会 Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988
参考書籍
『現代聖書注解 ホセア書―ミカ書』J.リンバーグ、日本基督教団出版局、1992年
※Надежда МинустинаによるPixabayからの画像